030 生命あるパイ 1

「夜のお菓子」という不思議なキャッチフレーズで知られる浜松の春華堂の「うなぎパイ」。名前を聞くたびに、うなぎの形のパイ、柳川なべのドジョウみたいにうなぎが刺さった円形のパイ、うなぎの蒲焼が具になったミルフィーユ、タルト型の中にぐるぐると詰まったうなぎの姿、小さいパイが蒲焼の串みたいのに刺さってる形、そういうものを次々と想像して、妙な気分になります。

もちろん実態はそんな面白いものではなく、パルミエに似た普通においしいお菓子です。昭和30年代から生き残ってるんですから、そんなむちゃくちゃなものであるわけがない。わかってるのに、何度も食べているのに、いまだに名前を聞くと自動的に変な想像をしてしまいます。

なぜそんな話をするのかって、英国の童謡集、マザーグースに出てくる「からすパイ」って、「うなぎパイ」よりすごいなあ、って思ったからです。だって、このパイは、生きてるんです。

ごく有名な、からすパイのうた。Sing a song of six penceではじまる、あれです。もとの詩を知らない人のために、原文と日本語訳、ここに掲載します。詩を読みながら、からすパイのさまざまな形態を想像してください。

この詩、ちょっと前までは、子供用のうたや物語というのは、思いっきり気味が悪くてオッケーだったんだなあ、って改めて感じ入っちゃう内容です。まあ、大人の世界でも「わけがわからなくて怖い」っていうものは減ってますし、そこらあたりのディズニー的修正は私が個人的に残念でも、仕方ない世の中の流れ、ってもんかもしれません。

撃ち落され、王様に供されるパイの中身となったはずの鳥が、パイに包丁が入った瞬間に新たな命を得て、けたたましくなき、ばさばさと飛び去る。まもなくもどってきて洗濯物干してたメイドさんの鼻をむしりとる。死、再生、いたずら。これって…「ファンキー」なんだか「狂ってる」んだか「深い象徴的意味がある」のか決めかねますが、ともかくとんでもない図です。

こういう光景を詩の形で記録しておきたいという欲望がどこから来るのか知りたい、と思います。また、これがほかの鳥じゃなくて、からすだ、ということも気になります。

2007年1月


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