017 ビッグフット

モンスターの類が好きなんです、とアメリカ人に言うと、ときどき出てくる質問があります。

「ビッグフットって、いると思いますか?」

ビッグフットっていうのは、日本の人にはあまりなじみがないかもしれません。ヒマラヤの雪男に似た怪物です。北アメリカ大陸の山の中に住んでいると言われています。時々写真だの足跡だのを含む目撃談が出てきて、そのたびに「いる」「いない」で大騒ぎになります。写真は合成かもしれず、足跡も偽物かもしれない。(かもしれない、じゃなくて、大方がガセネタです。やっぱり。)

いまどき、まだ発見されていない大型の類人猿がどこかにいるなんて、狭くて混雑してる日本では想像するのも馬鹿ばかしいです。でも、アメリカは大きくて、いまだに人がほとんど住んでいない地域や、人の手がほとんど入っていない山深い森林がたくさんあるので、こういう話があっても、それほど変ではありません。

私には「いる」も「いない」も意見はありませんから、とりあえず、そのまま質問を返します。「あなたは? いると思いますか?」

面白いのは、かなり多くの人が「いてもいいと思う」「可能性はあると思う」って大真面目に答えることです。これ、夢見がちの中学生じゃありません。大人です。

アメリカ人みたいに自然から遠い人たちはない、って、日ごろ彼らのエレクトロニクスに頼り切った生活と、加工食品ばかりの食事を見ていると感じます。だからこうやって、世界と自然に対する不可知の感覚を持っている人が多いのを見ると、なおさら驚かされます。

まだわかっていないことがたくさんある。自然ははかり知れない深さを持ったものだ。何が隠れているか、わからない。ビッグフットがいるかもしれない、と思うのは、こういう感覚があるからです。

とても謙虚な態度です。季節の移り変わりに敏感なことを自慢する日本人の私たちは、この気持ちを忘れてるときのほうが多いのではないでしょうか。

アメリカ人のほうが自然に近いかもしれないなんて、世の中、あっちこっちから眺めてみないとわかんないもんだなあ、って、群盲撫象みたいなことを考えました。

2006年8月


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