012 一本歯の高下駄

天狗と唐傘おばけの共通の性質に、ぴょーんと跳躍する、というのがあります。ふと、これは、履物のせいかもしれない、と思いつきました。

下駄っていうのは、歯が二本ついてるのが普通で、一本のやつは、普通の生活をしてるだけでは、ほとんど見かけません。そんなものをはいてるのは、妖怪だけ、と相場が決まっています。その上、やつらがはいてるのは、ただの一本歯じゃなくて、一本歯の高下駄です。

古武道に凝ってる友人に電話しました。

「ひょっとして、一本歯の高下駄をはくと、ぴょーん、って飛びやすいんですかね?」

むちゃくちゃに唐突な質問ですが、彼は不思議とも思わなかったらしく、快く答えてくれました。

「…一本歯の高下駄とか、竹馬とか、ああいう、重心が高いところにきて、不安定な履物は、筋肉の力をほとんど使わないで、体重の移動だけで前へ出ることができるんですよ」

「マリオネットの動きを想像してください。だらんとたらした手足を、ほんのちょっと体を傾けるだけで前へ投げ出す。投げ出した手足のほうへ体重を移動させれば、すい、と進めるわけです。重心が高くなると、それだけ重心を動かすのが簡単になるので、高下駄とか竹馬は有利です。これを繰り返せば、非常に長い時間、かなりの速度で歩けます。もちろん、慣れなきゃだめですけどね…」

へえ。

つまり、彼らは、上下方向の跳躍ではなくて、本当は、水平方向の移動が得意なのです。それは、妖怪の魔力でもなんでもなく、履物と、それを使いこなせる身体能力のせいなのです。体がこわばっていたら、この動きはできないそうです。妖怪は、自然体、なわけです。

天狗と傘お化けが飛ぶという印象があるのは、昔は、この高下駄の性質を多くの人が知っていたからではないでしょうか。

「望月さん、これは腰に負担かからないし、自ら試してみてはどうですか。下駄、お貸ししますよ」

いやー、私は妖怪の仲間入りをしようという野望は、今のところ、ありません。

唐傘おばけのTシャツのために絵を描いていて、高下駄に興味を持ったために、あやうくオバケ修行をさせられるところでした。

また書きます。

2006年7月


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